犬と歯のこと(戌年に因んで)

人間は親知らず(智歯)を含めて32本の歯がありますが、イヌは何本の歯があるのでしょう。正解は42本です。人間は上下6本ずつの切歯(前歯)と10本ずつの奥歯があります。そして前から3番目の切歯は犬歯と呼ばれています。イヌは上下6本ずつの切歯の後ろに犬歯が独立してあり、奥歯は上に12本、下に14本あります。
歯の並び方を表わす「歯式」であらわすと
ヒト
3・2・3
3・2・3
aaaa I(3)・P(2)・M(2)
I(3)・P(2)・M(2)
イヌ
3・1・4・2
3・1・4・3
aaa I(3)・C・P(4)・M(2)
I(3)・C・P(4)・M(3)
となります。Iは切歯、Cは犬歯、Pは小臼歯、Mは大臼歯です。なぜ歯の数が違うのでしょう。イヌのPは裁肉歯(裂肉歯)と呼ばれるようにヒトが野菜も肉も食べる雑食性なのに対して、イヌはほとんど肉食だからでしょう。それは歯の形にも現れています。
ヒトの3番目の前歯を犬歯と呼ぶのはイヌの歯のように鋭くとがっているからです。江戸時代に杉田玄白等がターヘルアナトミアを翻訳した「解体新書」でもヒトの3番目の前歯を「犬牙」と名づけました。さらに大槻玄沢は「重訂解体新書」で「犬歯」と名づけています。
野生のイヌにはもともとむし歯や歯周病はほとんどありません。野生のイヌはお菓子やジュースを食べたり、飲んだりしませんからね。人間に飼われるようになるとイヌもむし歯や歯周病になりました。それでもイヌは人間に比べてむし歯になりにくいのです。なぜでしょう?それはイヌの唾液がもともとアルカリ性だからです。ヒトの唾液は中性で食事をすると酸性になり、むし歯ができやすくなります。イヌの唾液はもともとアルカリ性ですので、食事をしても酸性になりにくいのです。食事をするとお口の中が酸性になり、歯の表面では脱灰が起こり、むし歯ができやすい状態になります。これは唾液によって中性に戻り、歯の表面では再石灰化が起こり、修復されます。脱灰のほうが再石灰化よりも多いとむし歯になってしまいます。このことから最近では「むし歯リスク」という言葉が盛んに言われるようになりました。
「むし歯リスク」(むし歯になる危険度)では唾液の量や性質、お口の中のミュータンス菌の量が重要です。
左の写真はむし歯や歯周病のあるイヌのお口です。もともとむし歯になりにくいイヌでさえ、最近の人と同じ食生活ではむし歯になってしまうのですね。間食を控えたり、よく咬んで唾液をたくさん出して「むし歯リスク」を減らすことが大切です。またブラッシングを工夫したり、歯科医院で唾液やお口の中を検査してもらうことも有効ですよ。