最近テレビで良く話題になる、「3Mix-MP法」なる治療法について

「3Mix-MP法」という治療を行っている仙台市の某歯科医師が、最近良くテレビに出演します。
この「3Mix-MP法」は特殊な治療で、「虫歯を削らない、痛くない、1回で終わる」との事。
ウ蝕中の細菌が全て死滅するため、悪い所を削る必要が無いとの事。
歯を削る事無く詰める事ができ、1回で終わるとの事。
その先生の歯科医院には全国から患者さんが訪れるそうです。

虫歯の治療のうち、確かにそうできる症例もありますが、それは少ないです。
大部分の虫歯はもっと進んでおり、治療回数も数回掛かる場合の方が多いのです。
全ての虫歯の治療が、簡単に1回で終わるかのような報道は間違っています。
大きな虫歯ができて、1回の治療で終わると信じて、わざわざ遠くから仙台の歯科医院まで行ったが、既に重症で数回歯の中の洗浄、消毒をしなければならず、その後 型を採って被せなければならなかったという場合もありえます。

そもそも「3Mix-MP法」とはどんな治療法なのでしょうか?
メトロニダゾール・シプロフロキサシン・セファクロールという3種類の抗生物質と、基材としてマクロゴール・プロピレングリコールを混ぜた物を抗菌剤として用いる治療法です。
これをウ蝕病巣に置くと、そこに存在する細菌を全て殺す事ができます。
そうすれば虫歯を削らずに神経(歯髄)を残し、詰める方法で治せる場合があるのです。
※右図 参照

細菌を全て殺せはしても、虫歯の部分は軟かいですから、そのまま詰めてもすぐに取れてしまいます。
ある程度削って、歯の硬い部分を出してそこに詰め物を接着しないと 十分にくっつきません。
したがって、全然削らない治療というものは成り立ちません。
歯を削らない治療法という言い方は間違っています。
それから大きな虫歯では、歯も脆くなっているため、ただ詰めるだけではすぐに欠けてしまいます。
金属などで被せなければなりません。
細菌が歯髄(神経)にまで達してしまい、歯髄が既に死んだり腐っている症例では、根管治療(神経を全て取って根の中の清掃・消毒をする治療)(これだけで数回掛かる)が必要です。その後 被せます。
既に治してある歯が再び虫歯になる場合も多いです。
その時はさらに進んでいるので重症です。
この様な症例では1回では終わりませんし、またこういう場合の方が多いのです。
全ての虫歯の治療が簡単に1回で終わるかのような報道は、間違っています。

3Mixという薬は何ら特別な薬では無く、特別な歯科医師しか使えない薬でもなく、普通に使われている抗生物質です。
テレビ番組での報道になるとあまりに衝撃的なタイトル、内容になってしまう事が多いですね。
これは歯科に限らず医科 あるいは健康一般に関する番組・報道でもそうだと思います。
誤解のないように、正しく伝えて欲しいと思います。
 
  

以下もご参照ください。(専門的な話しになるかもしれませんが)

従来は何故 歯髄(神経)を取る事が多かったか?
元々歯髄は生活力の低い組織であって、少しの細菌感染でも炎症が進み、治りにくくて いずれ壊死・壊疽(腐って臭くなる)に進んで、さらには顎骨の化膿にまで進んでしまう。
そのため早めに歯髄を除去して歯の中を清掃・消毒して、中に細菌が入らないように薬剤とセメントでふさいでしまう事が多かった。
歯髄に細菌感染が及ぶ前に、それを防ぐ事ができれば、抜髄(いわゆる神経を取る治療)は避けられるのであるが、なかなかそれを防ぐ事ができる薬剤はなかった。
従来使われていた抗生物質では、ウ蝕病巣内の細菌を全て殺す事はできなかったからである。

そもそもこれらに関して、ウ蝕病巣内の細菌、並びにそれに有効な薬剤の研究をしたのは、
新潟大学歯科保存学第1講座の岩久正明教授、新潟大学口腔細菌学講座の星野悦郎教授である。(講座名は当時のもの)
(どういうわけか、この両先生はテレビには出演せずに、全然関係ない開業医ばかり出演します。)

両教授の研究により、ウ蝕病巣内の細菌・感染歯髄内の細菌の種類が明らかになったのは、1980年代であり、それらの細菌に有効な抗生物質が分かったのはそれ以降なのである。
それらの細菌は偏性嫌気性菌であって、採取・培養がとても困難であった。
偏性嫌気性菌は酸素に触れるとすぐに死滅してしまうからである。
そのため菌の採取・培養をいっさい酸素に触れる事なく行わなければならない。
嫌気グローブボックスという高額な装置内での嫌気培養システムが確立されてから、偏性嫌気性菌の培養が可能になったのである。

それらの嫌気性菌に有効な抗生物質はメトロニダゾールである事が分かり、1985年の学会で報告された。
ほとんどの細菌をこの薬剤で殺せるのであるが、若干の好気性菌の生育の可能性があるため、シプロフロキサシン、セファクロールを併用する事となった。
この3種混合薬剤でほぼ100パーセントの細菌を殺す事ができるという事が分かったのである。
その略称が「3Mix」と呼ばれており、歯髄に障害を与えずに細菌を全て殺すには今の所 この薬しかないのである。
他にも細菌を全て殺す薬はあるが、歯髄を障害、壊死させてしまう。
基材(軟膏の時に使うワセリンの様な物)としてMP(マクロゴール・プロピレングリコール)を用い、これを使った治療が「3Mix-MP法」
と呼ばれている。
元々あった「3Mix」を基材である「MP」に混ぜて使って、その治療法に「3Mix-MP法」という名前をつけたのは、仙台の某先生のようである。

「3Mix」理論が発表される前は、細菌を除去するためにウ蝕病巣はすべて削って除去していました。
癌の外科手術に似ていますね。
ウ蝕病巣を全て除去すると、歯髄(神経)が露出してしまった症例では、抜髄(神経を取る処置)をしなければならなかった。
しかし、ウ蝕病巣を少し残し、その部分の細菌を全て「3Mix」で殺す事ができれば、歯髄を健康な状態で残す事ができる。そういう治療も可能なのである。